270人が本棚に入れています
本棚に追加
「…綺流兎ちゃん!」
無事、解放された夕羅。
有無を言わさず、あたしを力強く抱きしめた。
いつもなら慌てまくるのに、無抵抗になってしまった。
…処刑が中止になって、緊張の糸が切れたせい?……いや、違う。
ぎゅうっ…と、あたしも彼の背に手を回し、抱きしめ合う。
「…綺流兎ちゃん…心配、した…?」
「あ…当たり前でしょ!ばか…っ」
――…温もりの中、夕羅の鼓動が聴こえて。
……そこでやっと、今まで抑えていた涙が溢れてきた。
「……本当に…死んじゃうかと思っ……」
「うん…、ごめん……」
「……っ」
泣きながら、彼を見上げる。
涙で、ぐしゃぐしゃ顔のあたしを、優しく見つめてくれてて。
「綺流兎……」
まばたきと同じ、一瞬。
彼の唇があたしの唇に、……軽く触れ、…離れた。
最初のコメントを投稿しよう!