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その日の夜、ジャック・グランドは娘のピアノの発表会の会場にいた。
すでに何人かの演奏は済んでいたようだが、幸い娘のポーラの演奏は始まっていなかった。
秋も深まりつつあるのに、会場まで走って入ってきたジャックは汗だくで、それを周りの親たちが迷惑そうに見ていた。
もちろん、一番彼を睨んでいるのは妻のヘレンである。まるで、他人の形相で目を細めている。
しかし、仕方ないことだ。きっかり7時までに、ニュージャージーのコンサートホールに来る約束だったのだから。今日は間に合っただけでもいいじゃないか。と、ジャックは自分をなだめた。
「いつも、いつも遅すぎよ」
と、ヘレンが小声で文句を言ってきた。
だが、ジャックはすまない、と一言だけ言い、他の子供の演奏に集中することにした。
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