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ヘレンにも似たか、ポーラは。
ジャックは、妻と娘が自分を置いて先に帰って行った様子を見て、つくづくと感じた。
ヘレンは昔からああだった。ヘレンとジャックは学生時代からの付き合いだ。ヘレンが、ジャックのノートにコーヒーをこぼしたのがきっかけだ。
大学の中でも、顔に似つかず強情だ。と、男子学生の中では一種の噂になっていた。
例えば、アタックした男には、ことごとく罵声を浴びせて振るとか、毎回近くのコーヒースタンドでその恵まれた顔を使って、男にコーヒーを買わせていたとか。もちろん、結局それらは噂の域を出ることはなかったが。
だから、ジャック自身もコーヒーをノートにこぼされたときにはものすごく驚いた。一瞬だけわざとこぼしたのかと思ってしまった。だが、その思いこみはその後の彼女の言葉で変わってしまった。
すかさず、真意のこもった口調で謝罪をしてきたからだ。
あとで、付き合いだしてからわかったのだが、彼女は、ひどく礼儀正しい家庭に育ったせいで、自分の非だけはすぐに謝って“しまう”癖がついたらしい。
まあ、その他の性格はどうしようもなかったが。
そんなわけで、ヘレンと付き合い出して、大学を卒業してからは同棲を始めた。
それからの生活はご察しの通りだろう。
だけども、彼女は妻としては申し分ない。持ち前の礼儀正しさから、しっかりと家庭を守ってくれている。だから、ジャックもコムの仕事に集中できるのだ。
その点は非常に感謝している。
しかし、最近は以前に比べて夫婦のコミュニケーションが、ジャックの仕事によって少なくなってしまい、ヘレンは不満を持っている。そのせいか、ジャックへの風が強くなっているようだ。
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