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「おはよう」
次の朝、恐る恐る妻ヘレンにジャックは声をかけた。
予想していたとおり返事は、未だに冷たい視線だけだったが。
家の中と外じゃ、雰囲気が大違いだ。
外は晩秋の趣らしく赤く色づいた庭木の葉が、短く刈られた芝の上に散っている。昔、ロスにいた頃はなかった光景だ。
やっぱり四季はいい。ジャックは時々、引退したら日本で隠遁生活でもしようと考えているほどだ。
だが、家の中はまるで殺伐している。まあ、その原因を作り出したのはジャック自身なので、時がそれを洗い流すのを待つだけである。
一向にヘレンからの“休戦交渉”がなく、朝食を用意してくれそうになかったので、自分で焼いたトーストと、自分でいれたコーヒーを手に、朝刊を広げた。
やはり一面の見出しはハルツァーム共和国の政変についてだ。
“中東政策転換期に”
とある。昨日、俺が昨日思ったことがそのまま記事になってるじゃないか。だれか盗んだな。
ジャックはジョークを自分の中で完結させた。
しょうがない。話し相手がいないのだから。目の前の女性は、まだ昨日のことを引きずっている。
朝食を終えるとジャックは、唯一の“理解者”だと信じている6歳の息子、チャールズに手を振り目で笑いかけて、仕事場へと家を出た。
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