COM(コム)局長

11/11
前へ
/34ページ
次へ
「おはよう」 次の朝、恐る恐る妻ヘレンにジャックは声をかけた。 予想していたとおり返事は、未だに冷たい視線だけだったが。 家の中と外じゃ、雰囲気が大違いだ。 外は晩秋の趣らしく赤く色づいた庭木の葉が、短く刈られた芝の上に散っている。昔、ロスにいた頃はなかった光景だ。 やっぱり四季はいい。ジャックは時々、引退したら日本で隠遁生活でもしようと考えているほどだ。 だが、家の中はまるで殺伐している。まあ、その原因を作り出したのはジャック自身なので、時がそれを洗い流すのを待つだけである。 一向にヘレンからの“休戦交渉”がなく、朝食を用意してくれそうになかったので、自分で焼いたトーストと、自分でいれたコーヒーを手に、朝刊を広げた。 やはり一面の見出しはハルツァーム共和国の政変についてだ。 “中東政策転換期に” とある。昨日、俺が昨日思ったことがそのまま記事になってるじゃないか。だれか盗んだな。 ジャックはジョークを自分の中で完結させた。 しょうがない。話し相手がいないのだから。目の前の女性は、まだ昨日のことを引きずっている。 朝食を終えるとジャックは、唯一の“理解者”だと信じている6歳の息子、チャールズに手を振り目で笑いかけて、仕事場へと家を出た。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加