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肌寒い朝方、彼女は死んだ。まだあたりには、火炎瓶によるものであろう炎がくすぶっている。
すすで黒くくすんでしまった道路の上に彼女の血がしたたり、彼女を抱きかかえるニコル・レノンの膝にべっとりとついた。
強く抱きしめても、以前のような暖かさは感じられない。まるで彼女のあの優しさが消え去ってしまったようだ。
この暴動は僕らが起こしたことには変わりない。だが、EUのあのやり方は許せない。
何が移民排斥だ。ヨーロッパを作ったのは昔からここに住んでた人間だけではないじゃないか。
僕の父さんだって、一生懸命頑張った。ヨーロッパをより繁栄させるために。
なのにどうして? どうしてここにやってくるのが遅かったっていう理由だけで、差別を受けなければならないんだ。
挙げ句の果てにはEU加盟国すべてから追い出すんだ。
これからどこへ行こう……。
マリーの後を追おうか。
ニコルは亡き者になってしまった婚約者の頬のすすを拭って、唇を重ねた。
やはり冷たい……。
彼の手には黒く不気味に光るナイフが握られていた。
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