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水道で砂を全て落とした後、懐から絆創膏を取り出し患部に貼る。
「尻餅をつく程大事ではないですよ?」
「少し驚いただけよっ!」
靴に足を入れると、政士が「背負います」と背中を向け立て膝をついた。
茱梨は言葉に甘え背中に乗り彼の首にしがみつく。政士は茱梨の靴を取り手に持って歩き出した。
海岸の見える歩道を歩きながら思い出したように政士が話し出す。
「母から、昔姫様が私にしきりにおんぶをねだっていたと聞きました。もう15年も前のことです」
「その度にこうしておんぶしてくれてたの?」
「まさか。あの頃は全く出来ずに毎回「弱い」と言われてたようですね」
政士は笑って話した。
思えば、今までの人生の大半をいつも一緒に過ごしていた。
「政士、成長したね。昔は身長なんて同じくらいだったのに、気付いたらこんなに大きくなってた」
共に過ごした半生。
共に生きた人生。
まだまだ道は続くけど。
「政士?」
「何ですか?」
「キスして」
政士の歩みが止まり、溜め息が聞こえた。
きっと、王女と騎士という関係はこの先徐々に薄れてしまう。
好きだった騎士としての政士への、最後の願いだった。
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