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《2》
「父上、おはようございます」
食事の席についた茱梨はおもむろに国王である父親に挨拶をかけた。
元々温和な国王は辺りを見回しそのゆったりとした喋り方で茱梨に話しかける。
「おや…政士君は何処へ行ったのだね」
特例を除き常に茱梨の周りにいなくてはならない騎士──政士を探しているようだった。
「政士でしたら、今日は父親のお墓参りへ行きました」
茱梨が答える。
国王は瞼をぴくりと動かしたきり言葉を発しなかった。
城の近くにある、刑務所管理の墓地に彼はいた。
空は青く澄んでいる。
小鳥が何処かでさえずった。
「父さん、姫様も無事18歳を迎えました」
目の前には、一つの墓。
──桐生涼と彫られている。
「『俺のようにはなるな』──その言葉の真意が今頃になって分かってきた気がします」
弱い風が頬を擦り、髪を揺らす。
「ついに、彼女に真実を伝えなくてはなりません。あの国王でさえ彼女に話していない、あの真実を」
あの一件を思いだし、墓の前に手を合わせ座り込む政士の口から自然と言葉が零れる。
「あなたは間違えていたのでしょうか。愛する人を愛した、ただそれだけの結果なのに…」
いくら待っても、答えは返ってこない。
それでも政士はずっと、これを問い続けている。
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