第一章

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政士はその母親の話を思い出し廊下をぼーっとしながら歩き続ける。   「政士?」   茱梨が政士を見つけ顔を覗きこんだが、政士は特に驚いた様子も見せず   「どうしました?」   といつも通りの口調で問った。   「聞きたいのはこっちです」   その反応がつまらなかったのか、つんとした口調で茱梨は背を向ける。   「お待たせして申し訳御座いません」   あくまでいつも通り… 政士はただそれだけを思った。   ポーカーフェイスを装っているのではなく──それが騎士の務め、義務なんだ。 あの時から、彼はそう考えている。   「罰として、夜食のデザートをよこしなさい」   茱梨が手を伸ばし彼の額に人指し指を宛て、怒ったように頬を膨らませた。 それを見た政士は口端を僅かに歪ませ薄く笑う。   「かしこまりました」     彼女の笑顔を失いたくない。   その考えが、あのことを話させない。       俺は誓った。   あなたが太陽を目指す向日葵ならば、俺は月に向かう狼となろう。  
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