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政士はその母親の話を思い出し廊下をぼーっとしながら歩き続ける。
「政士?」
茱梨が政士を見つけ顔を覗きこんだが、政士は特に驚いた様子も見せず
「どうしました?」
といつも通りの口調で問った。
「聞きたいのはこっちです」
その反応がつまらなかったのか、つんとした口調で茱梨は背を向ける。
「お待たせして申し訳御座いません」
あくまでいつも通り…
政士はただそれだけを思った。
ポーカーフェイスを装っているのではなく──それが騎士の務め、義務なんだ。
あの時から、彼はそう考えている。
「罰として、夜食のデザートをよこしなさい」
茱梨が手を伸ばし彼の額に人指し指を宛て、怒ったように頬を膨らませた。
それを見た政士は口端を僅かに歪ませ薄く笑う。
「かしこまりました」
彼女の笑顔を失いたくない。
その考えが、あのことを話させない。
俺は誓った。
あなたが太陽を目指す向日葵ならば、俺は月に向かう狼となろう。
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