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二年後。
「ただいまっ!」
帰ってきて早々つまみ食いをする兄──侑(すすむ)を見て政士は
「おにいちゃんずるい!」
と声を上げた。
「こらっ侑!」
口を動かす侑を叱りながら愛藍が手際よく料理を運んできた。
「おとうさん早くかえってこないかな~」
政士はテーブルにつき食事を待ちながらあどけない言葉遣いでそう言った。愛藍の手が止まる。
政士はまだ知らされていなかった。
任命式の日が、父親の最期の日であることを──
お父さんは仕事で遠くへ行ってるの
そんな嘘も今日で二年目だ。
数日後。
母親と共に城に呼び出された政士を待っていたのは、王女である茱梨の母親と茱梨本人だった。
庭の小さな休憩所のような場所に座らされ、愛藍と政士は大人しく座った。
茱梨は政士が気になるようで、気付いてもらおうとしきりに手を伸ばしてはテーブルを叩く。
「茱梨」
王女が注意する。
愛藍は黙ったまま茱梨を見つめた。
瞳は蒼い。
「もう、あの人の事情はご存知かと思われます。」
「王女様…分かっています。今は、何も言わないで下さい」
愛藍は不意に政士の頭を撫でた。大きな碧眼がこちらを見上げる。
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