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歩道脇の防波堤に茱梨を優しく下ろすと、政士は茱梨に向かい合い彼女の頬に手を触れる。
「…目を、瞑って下さい」
丁度いい潮風の中──
二人の呼吸が次第に近付き静かに唇が触れ合う。
ほんの一瞬の後、通行人の注目が集まっているのに気付いた二人は苦笑して頭を下げた。
「あなたの服装が僅かに地味で助かりました」
「どういう意味よ!」
「あなたが王女だと分かれば一大事ですから」
再び茱梨を背負い、政士が歩き出す。
もう夕日も沈みかけていて、二人の影は伸びるばかり。
「姫様。私からも一つお願いしても宜しいですか?」
突然口を開いた政士に茱梨は「何?」と問う。
政士は微笑して続けた。
「我が儘な姫様にお願いします。私は、何があってもあなたを守り抜きます。だから、あなたは私から離れないで下さい。これからもずっと…」
茱梨はより一層強くしがみついて答える。
「…はい」
──いつまでも
あなたには笑っていてほしいの。
どんなことがあっても。
そんなこと言ったら笑うかな?
それは私のセリフです、って。
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