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久々に視察に訪れた街は、王女が来ているというのに全く変わらない様子で流れている。
やはり一般人の様な服装の為だろう。
視察は既に王女に任され、この時だけが政士と茱梨が城の監視から抜け出せる機会なのだ。
「政士!この花綺麗じゃない?」
茱梨が花屋の前で白い花を指差してそう言った。
しかし政士は特に答えようとはせず、口調が変わることなくこう言った。
「姫様。我々は買い物をしに来た訳ではないのですよ」
「むっ…分かってるわよ」
それからぶつぶつ言っている茱梨の横で、「この花を下さい」と声が聞こえた。
「政士?」
「仕方のない人ですね」
政士が花代を支払った後、それを渡された茱梨はわざと喜びの感情を出さぬように口を開く。
「何で政士が払うの」
「公費で出して頂けるのであれば出して下さい」
出せないでしょう、と付け加えた政士の横で、茱梨は嬉しさで笑みを溢した。
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