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未だ陽の沈まぬ地平線を見ながら、視察結果を書くのは政士の役目だ。
防波堤に座り、花を夕日に照らし足をふらふらとさせる茱梨がおもむろに聞く。
「政士は、結婚しないの?」
筆先が止まる。
一旦間を空け、政士が答えた。
「あなたの晴れ姿を見て、それから考えます」
感情の読み取れない声。
茱梨は何も返さず、ただ夕日を眺めるばかりだった。
「あなたが立派な王女となるまで、あなたに尽すつもりでいます」
──騎士として──。
言葉には出さなかったものの、茱梨にはそう聞こえてならなかった。
政士は私を「王女」としか見ていない。
それは既に分かっていた。
「姫様こそ、何故ご結婚されないのですか?」
突然の質問。
「既に沢山の御曹司様がご結婚を申し込まれておりますが、何か特別な理由でも?」
報告書をすらすらと書きながら、何か胸の奥を掻き乱される様な感覚に陥った茱梨は適当に答えを返す。
「どうでもいいじゃない。したくないからしない」
「ご好意を寄せているお方がいらっしゃるのであれば、国の方からお見合いを申し出ることも可能なのですよ?」
暫しの沈黙が訪れる。
「…そんな人はいないわ」
「そうですか」
書き終わり、歩き出した政士の口から僅かに溜め息が漏れた。
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