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深夜。シンと静まり返った道路を、一人の中年の男がふらついた足取りで歩いていた。
辺りに並ぶ家々は一日の活動を終え、どこも真っ暗である。灯りなど一つもついていない。
男はかなり酒に酔っているようだ。頭にネクタイを巻き付け、独り言――という次元を越す程の声量な為、最早独り言とは呼び難いものだが――を言いながら千鳥足で歩を進めて行く。
直後、男が足を止めた。
そして目前に佇む『何か』の正体を掴もうと、必死に目を凝らす。
「あーん? 誰だおめぇ」
男の視線の先にいた『何か』。それは――
漆黒。その『何か』を一言で表せと言われたら、それが一番相応(ふさわ)しいだろう。
それくらい、『何か』は黒かった。頭から足元まで、全てが黒かったのだ。
眼鏡の奥で男を捉える灰色の目が綺麗な『何か』は、少年。
それも、中学生くらいの小柄な体型である。
少年は黒の革靴を鳴らしつつ、男に向かって接近していった。
男は少年の異様とも言える姿に動揺したのか、その場で硬直してしまっている。
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