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「私を壊して下さい」
惨めだった。
触れる事さえ出来ず繋がれた我が身。
目の前には見下すような冷めた視線。
その瞳がふいに柔らかみを帯びたと思うと、彼女は私の頬に優しく手を触れた。
「嫌よ」
艶やかに甘く囁く唇はいつも平然と恐ろしい言葉を口にする。
「勿体ないから殺さない」
粘つくような吐息。
背中に回される腕。
「痛ッ──」
急に背中の触れられていた所から痛みを感じる。
痛みはやがて熱さに。
じわりと血が滲むのが分かる。
恐らく、彼女の付けている鉤爪で肌を裂かれたのだろう。
そのまま傷口に触れている指先は浅い割れ目をなぞってから、強引に進入を試みようと冷たく尖った部分が肉を押し込み私の中に僅かにだが入って来る。
じわり、じわりと。
時折、くちゅりと音を鳴し進入して来る彼女の指先に私は何度となく嗚咽を上げる。
繰り返される痛みと熱に頭の芯が痺れるような感覚がして、身をよじった。
しかし、手足を枷で繋がれた私に逃げる術はなく。深く進入した彼女の指が踊る。
「ぅあぁっ!!」
激しい痛みに瞼を堅く閉じる。
噛み締めた唇からは背中から流れているで有ろうものと同じ血液。
痛みを痛みで相殺出来る時は楽だ。
だが、今はとてもではないがこの程度の痛みでは耐えられそうにはなく、私は口を開く。
浸蝕されていく痛みと押し寄せる熱。
のけ反ったまま、それでも彼女の顔を見たくて声を漏らしながらも直ぐに閉じてしまいそうになる片目を僅かに開いて彼女へと視線を走らせる。
何故だ──?
私は愕然とする。
楽しそうに笑う彼女の瞳は儚げで、とても切なそうで。
唇の端を上げて恍惚に微笑むその横顔は何故か泣き出してしまいそうにみえた。
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