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「雨だ! どうしよう、傘持ってないよ……」
どこかに雨宿りしようと、辺りを見渡そうとしたその時。
頭の上に、すっと傘が差し出された。
「あ、すみませ……」
顔を上げて、心臓が止まるくらい驚いた。
傘を差し出してくれたのが松木さんだったから。
今なら話すチャンスかも!
私は思い切って話しかけようとした。
「ま、松木さん! その、私っ」
――ほんの一瞬の出来事だった。
傘の柄が私に手渡され、言葉が降って来た。
「傘は嫌いなんだ」
ドキッ!
あまりにも重く感じた、松木さんの一言。
なんて、なんて冷たい瞳。
そして、悲しそうな瞳……。
私はその場に立ち尽くし、足早に去っていく松木さんの後ろ姿を見ているしかなかった。
追いかけるなんて、とても出来なかった。
「しずくちゃん!」
私は、美雪さんの声で我に返った。
「松木くん、もう教室出た後で……って、しずくちゃん?」
視界がだんだんとぼやけていく。
私の瞳から温かいものが溢れ、止まらなくなっていた。
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