19人が本棚に入れています
本棚に追加
彼氏が彼女の姿を確認したとき、彼女もまた、彼氏の姿を見つけ、笑顔で手を振った。
その時だった。
彼女の自転車はバランスを崩し、道路のほうへ倒れ込んだ。
『!!』
――バスは走り始めていた。
彼女は、バスの下に飲み込まれた。
『美菜ーっ!』
◆
思い出した……!
二年前の、死亡事故。
もしかして――。
「そう。その事故の被害者が私の妹。松木くんは自分の彼女の死を、目の当たりにしてしまったの」
「そんな……!」
私は言葉を失った。
『傘は嫌いなんだ』
松木さんの言葉が、頭の中で繰り返される。
「松木くんはずっとバス停から離れずに、自分を責め続けてたわ。『俺が美菜を止めていれば』って。あなたが悪いわけじゃない、という私の言葉なんて届いていなかった」
松木さんの言葉、表情。
あれはすべて消えない傷がさせていたんだ。
「あれから少し経って、普段は落ち着いたように見えたけど、命日が近い今頃の雨の日は不安定になってしまうのよ」
松木さん……。
だから、二週間前の雨の日、傘をささずに、あのバス停で泣いていたんだ。
理由はわかったけれど、胸が痛かった。
こんなに深い悲しい理由だったなんて……。
それを私は、ただ気になっただけで、ここまで知ってしまった。
黙り込んだ私に、美雪さんが意外な言葉をかけた。
「でもね、たぶん近いうちに……松木くん、立ち直れると思うわ」
最初のコメントを投稿しよう!