勇気、そして……

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 彼氏が彼女の姿を確認したとき、彼女もまた、彼氏の姿を見つけ、笑顔で手を振った。  その時だった。  彼女の自転車はバランスを崩し、道路のほうへ倒れ込んだ。 『!!』  ――バスは走り始めていた。 彼女は、バスの下に飲み込まれた。 『美菜ーっ!』 ◆  思い出した……!  二年前の、死亡事故。  もしかして――。 「そう。その事故の被害者が私の妹。松木くんは自分の彼女の死を、目の当たりにしてしまったの」 「そんな……!」  私は言葉を失った。 『傘は嫌いなんだ』  松木さんの言葉が、頭の中で繰り返される。 「松木くんはずっとバス停から離れずに、自分を責め続けてたわ。『俺が美菜を止めていれば』って。あなたが悪いわけじゃない、という私の言葉なんて届いていなかった」  松木さんの言葉、表情。  あれはすべて消えない傷がさせていたんだ。 「あれから少し経って、普段は落ち着いたように見えたけど、命日が近い今頃の雨の日は不安定になってしまうのよ」  松木さん……。  だから、二週間前の雨の日、傘をささずに、あのバス停で泣いていたんだ。  理由はわかったけれど、胸が痛かった。  こんなに深い悲しい理由だったなんて……。  それを私は、ただ気になっただけで、ここまで知ってしまった。  黙り込んだ私に、美雪さんが意外な言葉をかけた。 「でもね、たぶん近いうちに……松木くん、立ち直れると思うわ」
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