勇気、そして……

8/11
前へ
/38ページ
次へ
「えっ……?」  私が驚いて聞き返すと、美雪さんは笑顔で話してくれた。 「気になる子が出来たんだって」  ――ドキッ!  気になる子――? 「二週間前の雨の日。バス停にいたら、目の前を傘もささないで自転車を押してたおばあさんがいて。その時、自分をしばらく見ていた女の子が……」  あ……!  私の記憶が一気にフラッシュバックした。 ◆ 『おばあさん、この傘使って! そのままじゃ荷物も濡れちゃうでしょう? 自転車は私が押していきます』 『悪いわねぇ、急に降り出したものだから』 『いいんですよ、いきましょう』 ◆ 。そうだ、あの時、私……。 「しずくちゃん」  美雪さんの声が、私を現実に呼び戻す。 「その光景を見ていた松木くんの心の中で、美菜が囁いたような気がしたんだって」  美雪さんは窓の外を見ながら、その言葉を教えてくれた。 「『勇気を出すのにも、勇気がいるんだよ。わたしがその勇気のかけらをあげるから、勇気をだして。松木さん、前に進んで』――わが妹ながら、いいこと言うと思わない? しずくちゃん」  美雪さんは、柔らかく笑った。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加