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雨はあがり、夕暮れ時の綺麗な空が広がっていた。
私は傘をにぎりしめ、懸命に走っていた。
――あの場所へ向かって。
息が苦しくなるほど走って、途中で何度も立ち止まりそうになったけど……。
止まってしまったら、全部が途切れてしまいそうで、私は必死に走った。
そのうちに、見慣れた光景が目に飛び込んでくる。
そして――。
「松木さん!」
私は、力いっぱい叫んだ。
松木さんは私に気付くと、ゆっくりと私のほうへ向かって歩いてくる。
ようやく二人が向き合えるようになると、私はその場にへたり込んでしまった。
呼吸も乱れて、なにも言葉にならない。
言いたいことはたくさんあるのに。
そんな私の腕を松木さんがゆっくりと抱え、立ち上がらせてくれた。
そして、言う。
「俺のために走って来てくれたんだね。ありがとう」
私はおそるおそる、松木さんの顔を見た。
涙はなかった。
「ま、松木さ――」
いざとなると、なにひとつ言葉にならない。
そんな私に松木さんから言葉が零れる。
「疲れてるところ、悪い。付き合ってほしいところがあるんだ」
松木さんはそう言って、私の手をとって歩き出した。
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