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しばらく二人で黙って歩いた。
でも、沈黙は重くない。
私の手を、松木さんがしっかりと握っていてくれたから。
ふと、ある場所で松木さんの足が止まった。
「ここは……」
昨日、松木さんが写真を撮っていた公園だった。
「天気のいい日は、いつもここからカメラを空に向かって構えてた。そして、二人であのバス停まで写真を撮りながら散歩した」
二人――相手は美菜さんだろう。
「あいつがいなくなってからも、天気のいい日にはこうやって空を撮り続けた。そうすると、あいつが傍にいてくれる感じがしたんだ」
微かに微笑む松木さんの横顔が、夕陽に照らされて綺麗に見えた。
私は思い切って声をかけた。
「美雪さんに全部聞きました。それで、あの……」
私が次の言葉を探していると、松木さんがゆっくり私のほうを向いた。
そして、しっかりと目を見る。
「俺は、君と美菜に勇気をもらったんだ。あの場所から――地縛霊のように動けなかったバス停から、一歩踏み出す勇気を」
松木さんの手が、私が握っていた傘に伸ばされる。
「もう一度言わせてくれ。……ありがとう、しずくちゃん」
「松木さん……!」
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