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朱里は辺りを見渡す。段々畑から若い男が軽い足取りで駆けおりてくる。その後ろには罵り声を上げながら追いかける4人の男達がいた。
彼ら4人の腰には刀がさしてある。しかし追いかけられている男の腰には何もない。着流しを膝までたくし上げ、背に木製の箱と旗を背負っている。薬屋のようだ。
4人のうち1人が薬屋のすぐ側まで追いついた。にやりと笑うと腰の刀を抜いた。薬屋の眉が微かに動く。朱里はごくりと息を飲む。
しかし次の瞬間、薬屋はかぶっていた編み笠を相手に投げ飛ばす。同時に手ににぎっていた木刀を思いきり振りかざす。硬いものが割れる音がした。殴られた男は悲鳴をあげて後ろから走ってきた者にぶつかる。
そしてまた薬屋は川沿いに走り出し、一拍遅れて4人の男達は刀に手を当てながら追いかけた。
だんだん朱里がいる所まで近づいてくる。表情が見えた。
薬屋は端正な顔立ちをした10代後半の青年だった。
彼は川沿いにある小屋を横切り、その先にある橋を渡ろうとした。
「お侍さん、こっちです」
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