朱里

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 朱里は青年の手をつかんで河原の方へ引っぱる。 「こんな所があったのか」  二人は橋の下にある洞穴の中に入った。少し狭いが身を隠す位の広さはある。 「どこへ消えやがった」 「見逃してしまったか」 「逃げ足の速い奴だ」 「ちくしょう」  彼らは愚痴を吐きながら朱里達が隠れた所を通り過ぎ、橋を渡っていった。  しばらくして二人は外へ出た。 「とりあえず礼は言っておくぜ。ありがとうよ。4人が全員刀を抜いていたら危なかったかもな」  朱里はほっとしたようにうなずく。   「……お前、さっき俺の事を侍と言っていたな」 青年は彼女にじっと目を向け、口を開いた。彼は日に焼けて黒い顔をしているが、きりりとした切れ目でさっぱりとしている。どこか風流がある。 「どうしてそう思ったんだ」    軽く蹴った小石が川へ転げ落ちて小さな波紋を作る。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加