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空には紅い月が、逃げ惑う人々を見て嘲笑うかのように存在していた。
確かに、砂漠の真ん中にある一つの小さな村は今、赤き軍団による夜襲を受けている。
悲鳴、狂気、血飛沫。
至る所で行われる殺戮。
ただそこから、唯一逃げ延びた人間達がいた。
「はあ、はあ……!」
茶色くぼろぼろのコートを羽織った女性。まだ歩くことも知らない赤ん坊と、無表情の子供を引き連れ、必死で逃げていた。
「……」
無表情の子供は、漂ってきた死臭の発生源を振り返る。
燃え盛る焔と紅蓮の月光とを比較、無条件に手足が凍った。
「……月より、赤い……」
「……ディル!!」
女性は恐怖を眺める無表情の子供の肩を掴むと、そのまま子供の顔を懐に押しつける。
「見てはいけない、今は逃げるの。いいわね?」
女性の声色がいつものとは違う。無表情の子供もそれには気づいていたのだ。
だが、それに一番敏感に反応したのは赤ん坊だった。
「うわぁぁあん……」
「リア、もうちょっと我慢してね。ごめんね……」
「……」
女性が赤ん坊を必死にあやす様子を、ただ眺める無表情の子供。
やがて女性は無表情の子供の手も握り、再び走り始める。
だが、走り始めた途端、足を止めなければならない状況に女性は襲われたのだ。
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