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「…なッ……そうか、貴様の野望が分かった……!ディルは渡さぬ!」
「そうか……ならば仕方ない……死んで───」
「待って!」
女性の手に繋がれた子供の精一杯の叫びが、大男の手を止めた。
「ディ、ディル………!?」
「……何だ、小僧」
「俺、行きますから。だから母上は殺さないで」
「!?、ディル、やめなさい!」
「ク……ククク、ハーッハッハ!!
…子供の方は親より賢明だな!よし、子供を連れて行け!」
「その前に!母上とリアを逃がしてください!……でなければ俺、絶対に行きません」
「…………」
血筋にしか能がない女と赤子に何ができるだろうか。答えはすぐに浮かび上がった。
「…こちらもおまえがいなければ困る身。いいだろう、奴らを解放せよ!」
「ディル……嫌ぁ……!」
「母上……」
ディルの小さな手は、愛しい母の手を振り払って一人大男の下へ歩んでいく。
足が震えているのを必死で我慢しながら、振り返ってうずくまる母親の姿を見ながら……ディルは泣いた。
「俺……行ってきます」
今日の満月は一段と紅かった。
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