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「たーなっべくん」 愉しげな声に、クラスの一部の空気が凍った。 声をかけられた田辺は、椅子に座ったままうつ向きじっと一点を見つめている。 「わっお無視ィ?酷くねー?これって立派なイジメだよなぁ」 スポーツ刈りからやや伸ばしたぐらいの髪を鷲掴みにして強引に揺さぶる。 「なぁ田辺くぅん?俺自殺しちゃうよー?」 そして耳元で言えば、周りの仲間から笑い声が上がった。 それでも田辺が何も言わないでいると、そいつは――平岡は机を足で蹴り倒した。 「数学っと」 すかさず平岡の取り巻きの女子が机から教科書を出す。 ペラペラとページを捲り、そしてビリビリと破いた。 「あー。ごめんね破けちゃったー。テープで付けたら使えるからー」 そしてポイと田辺に向かって投げ、それを拾おうとした田辺の脇腹を平岡が蹴った。 「うっわクッキリ。ワンポイントっぽくね?」 足の甲ではなく裏で蹴ったから、足跡がはっきり付いたのだろう。俺の席からは見えないが。
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