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第一章 再転
心地良い午後の風が頬に触れて走っていく。柔らかい日差しと対照的に、人々はこの日、素晴らしく熱くなっていた。熱気に包まれたファレンシア王国。戴冠式は始まった。
特等席には数多くの有力者や有名人が並ぶ中、場違いな三人の男女が恥ずかしそうに身を小さくしている。
大臣が王冠を手にした途端、人々は風の通る音が聞こえるほどに静まり返った。本来、王冠を次の王の頭に乗せるのは先代王の役目である。しかし、一年前の戦いにおいて先代王は崩御されたため、大臣が代わりを務めることとなった。王冠は日の光を反射して輝いている。
「アテナ・セレナード、前へ」
輝くドレスを身に纏った、この日女王となる美しい女性、アテナはゆっくりと歩を進める。一歩ごとに揺れるドレスが光を反射し、アテナをいっそう美しく見せる。
アテナは大臣の前に跪いた。王冠を持った大臣の両腕が伸びる。人々は騒ぎ出したい気持ちを必死で堪え、見守った。
「ここに、アテナ・セレナードを第九代国王アテナ・ファレンシアと認め、王冠を授ける」
大臣が決まりきった言葉を並べ、王冠をアテナの頭に乗せようとしたその時……。
「な、何だあれ!?」
突然の悲鳴に大臣は思わず腕を止めた。民衆の中の一人が王宮の頂を指差している。周りの人々も顔を上げて驚嘆した。
漆黒の巨体が城壁を登っている。長く鋭い二本の角が鈍く光る、虎のような怪物。それは腕を振り上げ、城壁を殴り壊した。壊れた城壁がアテナに落ちてくる。
その時、一人の男がアテナの前に立ち、落ちてきた城壁を素手で受け止めた。
「アテナ、無事か?」
その男、アレンの顔は驚きに満ちていた。
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