第二章 戦う理由 ‐Ⅰ‐

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 寝室にはクロノスとヴァースだけになった。ヴァースは心配そうな顔でクロノスを見つめている。クロノスはわざと視線を逸らした。 「クロノス、仕方ないさ。彼らも神の力を持っているんだから……」 「そんなこと、俺達だって変わらない」 「彼らのほうが神の力に詳しいかも知れないし────」 「慰めるのはやめろ! 余計に気分が悪くなる!」  クロノスは思わず声を張り上げていた。 「そ、そんなつもりじゃ…」  ヴァースは珍しくおろおろしながら言った。 「うるせぇ! お前には解らねぇよ! あんな無様な────」  言いかけて、クロノスは自分の言動を恥じた。見ると、ヴァースは哀しげな表情で黙っていた。 「……すまない。お前に当たることないのに、最低だ……」  ヴァースは表情を和らげ、クロノスの肩に手を乗せて優しい声を出した。 「いいんだ。でも、一つ解って欲しい。きっと、悔しいのは君だけじゃないはずだ。アレンやアテナ、もちろん私だって、あんな力を見せ付けられて平気なはずがないだろう。苦労して得た力をいとも容易くねじ伏せられて、私達だって悔しいんだよ」 「ああ、悪かった……」 「それからもう一つ」  ヴァースは打って変わって、恥ずかしそうに手を口元に当てた。 「これから、私には謝らないでくれるか。その、何だ……。弱気なクロノスは見たくない、から……」  言ってヴァースは顔を背けた。チラッと見えるヴァースの頬がほんのり赤く染まっている。 「ああ、ありがとう、ヴァース」  クロノスは微笑んだ。 「よし、決めた! あのヤロウに借りを返すまで、奴らについてってやるぜ!」 「私も黙っている訳には行かないな」  二人は拳をぶつけ合った。 「クロノス、ヴァース、俺とアテナは────」 「協力してやんだろ? その顔を見りゃわかるぜ。俺とヴァースもさ」 「返事は決まったな。今日は寝ようか」  秘める思いは様々なれど心一つに進み出す強き覚悟を、この夜四人は得たのだった。  
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