第一章 再転

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 ここで、ドレッドが初めて驚いた様子で目を丸くした。 「何だこれは?」 「飛空型特別戦闘艇、略して飛空艇だ。これで本部まで行こうか」  六人は飛空艇に乗り込んだ。すると、内装が少し変わっていることに気付いた。  本部の場所を教えてもらい、ヴァースは飛空艇を飛ばした。ドレッドとラフィアが飛空艇の急発進で転がる様を密かに期待していたクロノスは、飛空艇が飛んでもビクともしなかった二人に見事に期待を裏切られたのであった。 「この距離なら二十分程度で着く」 「なあヴァース、飛空艇のこと……」 「ああ、そうだったな」  ヴァースは操作盤から離れた。 「一年前、飛空艇は海に落ちたんだが、そのままにもしておけないから心術で私の家まで送ったんだ。それから半年くらいのある日、レグナム帝国の役人が訪ねてきてな。どこで嗅ぎつけたのか、飛空艇を見に来たらしい。役人は二時間ほど飛空艇を見て、これを譲ってくれと言ってきた。壊れているし、邪魔になるだけだったから譲ってやったよ」 「無償でだぜ? 役人なんだから金取りゃいいのにな」  クロノスがぼやく。ヴァースは無視して続けた。 「それから半年後、戴冠式の三日ほど前になるかな。役人がまた訪ねてきたんだ。その時役人が飛空艇に乗ってきたことには流石に驚いたよ。奴ら、たった半年で古代文明の技術を吸収したらしい。役人は飛空艇をお返ししよう、と言ってこの腕時計をくれたんだ。裏のスイッチを押したら、一時間くらいで飛空艇がやってきて、私の家の前に着陸した。それがこの飛空艇だ」  なるほど、道理で内装が変わっている訳だ。役人は飛空艇を研究して、自分達で量産し始めたのだ。  ヴァースの話をきっかけに、四人はこの一年間の話をし始めた。  アレンが義母を養うため、ファレンシアの町で働き始めたこと。アテナが女王即位まで、凄まじい日常を送ったこと。クロノスがヴァースに女らしさを追求し続け、終には無視されるようになったこと(アレンは笑いを堪えていた)。ヴァースが日々心術の修行をしていたのに、クロノスがあまりに邪魔をするので一度だけクロノスを家から追い出したこと(アレンは抱腹絶倒していた)。話の流れが宜しくない方向になってきたクロノスが話をドレッドとラフィアに振った。
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