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「旧倉庫街」と呼ばれる一角は市街地の西の外れにある。 『倉庫街』といえば聞こえ良いが、実際は『かつては倉庫街だった』に過ぎない。今はただの『廃墟』の集まりだ。 その中で比較的マシな廃墟の中に、その男はいた。 険しい表情のまま壁に背中を押し付けるように座り込んでいる。 年齢は50半ばといったところか? 細身で、神経質そうな銀縁眼鏡。 青みの強いグレーの頭髪は撫で付けられて、少しも乱れていないが、服装の方は、少々乱暴に扱われたのか、今は汚れとシワが目立つが、仕立ての良さそうなグレーのスーツ。 大企業の重役といった雰囲気だ。 その正面に向けられた、鋭い視線の先に、もう一つの人影があった。 20代半ば位だろうか? 若い男だ。 背はそれほど高くない。かろうじて標準といったところか? 短めに揃えた薄茶の髪、一体型のサングラスに、よく使い込まれたセージグリーンの軍用コートを羽織るように着ている。 真っすぐ伸ばした右腕の先には、大型の軍用拳銃。 レクサス社の『マービィン』だ。 『ハンディ・キャノン』手持ち大砲の異名を持つそれは、大型拳銃のカテゴリーの中でも群を抜いた重量と破壊力を誇り、扱うには相当に高いレベルの腕力と技量を要求する銃だ。 さして体格に恵まれている様に見えない若い男は、その点では完璧だった。 その銃口は、こゆるぎもしないで心臓に向けられていた。 重い沈黙が、廃墟を支配した。
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