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嗚呼、わかっていたんだ。奇形のカラスじゃ飛べない事くらい。 盲目の道化では踊れないことくらい。 紅いアネモネは愛され過ぎて萎れ、純潔の天使は神に貞操を捧げた。 唯、呪わしいのはこの血筋。獣を喰らうこの血筋。 少女の髪に留まった夕暮れの骸を延びすぎた爪で潰す。 片輪者の描いた遠い国の恋が薄っぺらな胸の中で泣いている。 あなたは「仕方ないね」と呟いて、寂しそうに頬を歪める。 それらの追憶に溺れ、月光に錯乱する私の友は白いピアノだけ。ささくれた指が奏でるのは波打つ麦の金色に似た若者が告げる別れの歌。発狂者は曇り硝子の外に黒の聖者を見た。シモン、シモン、嗚呼、シモンよ。砕かれた夜から目覚めた二月の空の下、私の肌に舞い落ちたささやかな白に、温かくさめざめと涙した。
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