セーヌ河岸

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橋が夥しい夕日の氾濫をさえぎっている、エッフェル塔の籠の中ではもはや夕日は赤銅のようにたぎってしまった。 僕はさっきからその壮観に打たれて、小一時間、この石の欄干にもたれたままだ、誰も僕に気付いていく人もなく、幸いなことに僕はただ一人で考えていられる。 ぎらぎらと呼吸もつかせぬ光線の中で 僕は幾万年かの昔を生きた、僕は幾万年かの未来を生きた、僕は広大無辺の世界中を一瞬のうちに歩きまわった。 もたれている石の欄干や、流れていくコルクの栓や、新聞紙や、朽ち枯れた花の包みや、そんな命のないものばかりのなかで僕は激しい生き甲斐を感じた、ながれでる両目の涙で夕日が僕の頬をつたった。 家に待っているものはなじめない本と白いベッドだけだが、僕の足どりは早く夕日と人々の中に踊り込んだ。
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