勿忘草

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忘れないでね? 私を忘れないで… 勿忘草 カーテンの隙間から、 床を伝ってベッドへと 長く線を引く… 陽の光りが眩しくて、 ゆっくりと瞼を開けた。 「………………」 そこに広がるのは、 白一色な世界。 壁もベッドも カーテンも… すべて真っ白な部屋に 私はいた。 ここはどこ? 私は、誰…? 徐々に醒めはじめる 意識の中で、 そんなことを思っていると 閉まっていたドアが ゆっくりと開いた。 「…大丈夫か?」 現れたのは、 数種類の花を集めた 花束を抱えた男性。 目が合うと、 彼は口を開いた。 「おーい…?」 視点が定まらず、 ぼーっと見つめる私に 彼は目の前で 手をひらひらと揺らし、 ベッドの脇にあった 椅子に腰を下ろした。 「大丈夫…じゃ、 なさそうだな」 「………………」 さっきまで 浮かべていた笑顔は、 どこかへ消えて その瞳は心配そうに 私を見つめる。 「…ごめんな、 俺が悪かったから」 表情を歪めて、 言葉を紡ぐ。 「あの時、俺が無理矢理じゃなかったら…こんなことにはならなかったのに」 一体、なんの話を しているの…? 現在(いま)の状況を 把握できていない私を 置いて、彼はさらに 話を進める。 「でも、あんな別れ方… 俺は納得できなかった」 「………………」 そう口にすると、 今度は真剣な瞳で 私を見つめた。 「俺は、ヒロのこと…」 「…あのっ」 「………………?」 張り詰めた空気の中、 紡いでいく彼の言葉を 遮って、私は口を開いた。
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