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「…そっか」
私が零す言葉に、
彼の瞳が小さく揺れる。
でも、彼は寄り添うように
そっとベッドへと
腰を下ろした。
「…いいよ、少しずつで。
俺は覚えてるんだから」
「………………」
手にしていた花束を
ベッドの脇の棚の上に置き、
その長い指が緩く
私の髪に触れる。
「…ヒロは、ヒロだよ?」
輪郭を掠めるように
流れ下りるその手が
私の頬を包み、
彼の唇が私のそれに
軽く触れた。
温かい…
初めて感じる感触じゃない。
それは幾度となく
私に温もりを
与えてくれたもの。
ほのかに香る
甘い彼の匂い…
それは、どんな不安をも
包み込んで安らぎを
与えてくれるもの。
「…っ、…!?」
いつの間にか
背中に回っていた彼の腕が、
私の腰に下りていくと
その感触に身体が
小さく揺れた。
「…まだ、ダメかな」
軽く触れ合った
唇を放すと、
彼は私から腕を放し
優しい笑みを浮かべた。
彼は優しい。
とてもとても優しい。
彼を知らない私が、
こんなにもそれを
許すことができるのは、
私が彼を愛していたから。
一番、大切な人
だったから…
ごめんね、そんな彼女を
消してしまって
こんな私が現れて…
私はあなたが愛していた
私じゃない。
大切な大切な
私じゃないんだよ…
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