勿忘草

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それから数日後… 私は毎晩、ある夢を 見るようになった。 真っ暗な闇の中に 私が立っていて、 目の前にうずくまる 一人の少女を見つめている。 「………………」 声を押し殺すように、 顔を伏せて泣く彼女に 触れようと腕を伸ばすけれど 私の指は彼女の 身体を通り抜けて、 そうすることを 許されないかのようで 「あ…どっ、」 言葉を紡いでも、 それは喉の手前で つかえて止まる。 私は彼女に何もできない。 「…ち、っゃん…」 「………………?」 自分の手のひらに 視線を落としていると、 彼女の口から声が零れた。 「…ケっ、…んちゃ」 深くうずくまり 口を覆うそのせいもあって、 その声は途切れ途切れに 私の耳に届いた。 小さく細い身体、 透き通るように白い首筋に 微かに震える背中。 「………………」 そして、私は 気づいてしまう。 これが私(ヒロ)なんだと。 私の代わりに この暗く静かな 闇の中に閉ざされて、 愛する人を想い涙する 私(ヒロ)なんだと… 「ヒロ…」 呟くように名前を口にすると、 その声に少し怯えるように 身体を揺らして 彼女がゆっくりと顔を上げる。 重なる二つの瞳… それは彼女のもので、 私のもの。 「私…、は…っ」 彼女の肩にかけようと 伸ばした指先。 そこから、急に 強い光が放たれて 目の前が一瞬にして 明るくなる。 目を瞑ると、いつもここで 目が覚めてしまう。 彼女に何もできないまま 何も伝えられないまま… でも、今日は 少し違うみたい。 瞼を開ければ、そこには 重なったままの 彼女の瞳があった。
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