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「………………」
涙で濡れたその瞳に、
引き込まれてしまいそうで。
私はふっと視線を逸らした。
「…私、じゃないよね」
「………………?」
目の前の彼女は、
私を見つめたまま言葉を零す。
「…私じゃないんだよ」
私を捕らえていたそれは、
流れるように
私の横を通り過ぎて
その先に見える
小さな光に向けられる。
彼女の見つめる先…
その光の先を見つめていると
どこからか無邪気な笑い声が
耳に届いた。
それは少しずつ大きくなって、
私の中に響くように
速まる鼓動…
呼吸をするのが苦しくなって、
目を瞑ると
そこにはどこか
懐かしさを感じる
二人の子供が並んでいた。
言葉にしなくても
伝わるくらい、
二人は幸福そうな
雰囲気に包まれて
それはだんだんと
成長していく姿に伴って、
大きさを増していく。
「…返して」
「………………」
その声に瞼を開けると、
彼女は立ち上がり
ゆっくりと私に近づいた。
そして、その手が
私の腕に触れる。
「ケンちゃん、を…私を」
「………………」
段々と力強くなるその手に、
私は彼女を見つめる。
そして、もう
何も口にすることが
できなくなってしまった。
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