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「………………」
やっぱり、私は
彼女ではないんだ。
瞼を開けると、そこは
いつもの病室のベッドの上。
天井を見つめ、瞼を落とすと
私の目から涙が零れた。
どうして、あんなにも
切ない顔で私を見つめるの?
どうして、あんなにも
哀しみを含んで…
やっぱり私は…、
あなたではないのだと
実感させられてしまうじゃない。
「…おっ、起きてたか」
「………………」
ゆっくりと身体を起こし、
視線を落としていると
優しい笑顔を浮かべた
ケンちゃんがドアから
顔を見せた。
「ほい、バナナ。
お前好きだろ?」
「………………」
お土産と言って、バナナを
私の膝元へと投げる姿。
その顔に浮かぶ笑顔…
それはまるでさっき見た
子供たちのものと
重なって見える。
「あと、…これは
いっちゃんから」
「…花束?」
はい、と小さく
束ねられた花束を
私の前に差し出す。
「勿忘草、って言うんだって。
…花言葉は確か」
「…私を忘れないで」
「あっ、そうそう。
なんか、いっちゃんが
渡してって」
「………………」
私を忘れないで…
忘れないで…
「…ヒロ?」
花束を見つめて、
頭の中を駆け巡るその言葉は
私の中で彼女を思い出させる。
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