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「…ありがとう」
「へっ…?」
「いっちゃんに、…
ありがとうって」
「…あ、うん」
顔も知らない
相手の名前を口にされても、
戸惑わずにいられるのは
私の中に彼女の
記憶があるから。
夢の中で見た、
幼い日の記憶から
今までの記憶すべてが
私の中にあるから…
「…思い出してる?」
「………んっ、」
そんな私の答えに、
ケンちゃんは安心したように
笑みを零すけれど
私の心は、さらに
彼女への申し訳ない気持ちで
包まれていく。
だって、彼女からまた
奪ってしまうから。
大切な記憶を
大切な大切な、この人を…
「…あ、そうだ。今日はヒロに
お客さんが来てるんだよ」
「お客さん?」
「そうそう、ずっと会いたいって言ってたんだけど…
お前まだ不安定だったから」
「ヒロちゃん!」
「うっ、ゎっ…!?」
ケンちゃんが触れる前に、
病室のドアが勢いよく開いて
小柄な女性が私に抱きつく。
「…おいっ、てっちゃん!」
「ずっと心配してたんだよ、
大丈夫?」
大きな瞳が
心配そうに私を見つめる。
「…ちょ、っ…あんま
抱きつくなって。まだ
治った訳じゃないんだから」
「もー、ケンちゃんは
過保護だなぁ。あんま
心配しなくても、ヒロちゃん
大丈夫じゃん!…ねぇ」
さらにキツく抱きしめられて、
少し苦しかったけど
なんだか嬉しかった。
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