出逢いは日常の中で

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ビルの入り口に立った竜樹は、ズボンのポケットから小型のスコープを取り出した。 スコープのスイッチを入れると、機械の駆動音が小さく鳴り始める。 そのスコープを目に着け、辺りを見回す。 スコープはサーモグラフティになっており、温度の高いものを明るい色で表示する。 竜樹は、自分の腕以外に明るい色の無いことを確認し、ビルの中へと歩を進めた。 開け放たれて動かない自動ドアを抜け、埃にまみれたロビーに入った。 水も日光も無い空間に放置された鉢木が枯れている。 腐敗の始まった木は少しだけ腐敗熱を持ち、そこだけがやや明るい色でスコープに映っている。 その様子に、竜樹は少し気味が悪いものを感じた。 ロビーの端の階段まで足音を忍ばせながら歩いた竜樹は、階段の上を見上げた。 ……ふう、居ないな。 いつもなら廃ビルの中を走り回って捜す竜樹だが、この廃ビルでそれをするのは気が引けていた。 なんだろうな……この感じは。 違和感に囚われながらも竜樹は階段を登ろうとした。 カツン…… 後ろで床を叩く音がした。 音の具合からして、おそらく音源と竜樹は互いに死角にいる。 急いで竜樹は壁にへばりついた。 カツン……カツン…… 音は次第に大きくなる。 竜樹に向かって歩いてきているのだ。 竜樹の心拍数が跳ね上がる。 心音で気づかれるんじゃないか? と思う程に。 カツン…… しかし足音は急に止まった。 …… しばらくの静寂。 カツン……カツン…… そして足音は遠ざかっていった。 安堵に竜樹は胸をなで下ろした。 そしてすぐに安堵とは別の感情が湧いてきた。 それは好奇心。 竜樹は向こうの姿を確認したくなった。 足音からしてドラゴンでは無さそうだが…… カツン……カツン…… 足音はかなり小さくなっている。 この距離からなら気づかれないよな? と、誰にでもなく心中で尋ねた竜樹は、そっと相手の姿を確認した。 案の定ドラゴンではなく人間だった。 が、しかし。 何だアレ!? スコープに映ったのは、その人間の体に浮かぶ、大量の四角である。 熱持った大量の四角は、竜樹に 「ドラゴンの鱗」 を彷彿させた。
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