607人が本棚に入れています
本棚に追加
「都会のドラゴン」は実在したんだ!
その事実に竜樹は感動し、同時に今それの真後ろにいることに恐怖を覚えた。
「逃げなければならない」と反射的に思った竜樹は、廃ビルの入り口へと駆け出した。
大きな足音を立てながらの奔走。
「誰!?」
その足音に相手は振り向いた。
時既に遅し。
竜樹の姿は廃ビルの林の中へて消えて行った。
「はあッ、はあッ、はあッ、はあッ……はあ……」
竜樹はさっきの廃ビルから猛ダッシュで逃げてきて、商業区のはずれの店の壁に体を預けていた。
竜樹の心臓が烈しく脈動していることが、竜樹自身にも理解できた。
そしてその烈しい脈動は、運動からくるそれだけではなく、間違い無く竜樹が興奮しているせいだ。
「よっしゃあああッ!!」
都会のドラゴン発見!
竜樹は叫んだ。
都会のドラゴンという存在の与える興奮が、体を駆け回って止まない。
その興奮を誰かに伝えたい。
竜樹はその衝動に強く駆られた。
とりあえずじっちゃんに伝えることにした竜樹は、急ぎ足で家へと帰り始めた。
帰ってきた竜樹は勢いよくじっちゃんの部屋の扉を開け放った。
「じっちゃん!『都会のドラゴン』を見つけたぜ!」
心底嬉しそうな顔で報告する竜樹。
じっちゃんはのほほんとした表情で、喜ぶ竜樹を見ている。
「おお、そうか。良かったのう…………なに!?本当か!?」
じっちゃんは一歩遅れて驚いた。
「本当だ!!」
「で、どんなドラゴンじゃった!?」
「ああ、一見人間だが、サーモグラフティで見るとウロコの模様が浮かび上がって見えるんだ!アレは絶対に人に化けたドラゴンだぜ!」
「あっそ」
じっちゃんのテンションは一気に下がった。
「おいッ!冷たいな!」
「それは多分ドラゴンじゃないのう」
「なんでだよ!明らかにおかしいだろ!」
「多分それは冷え症の人間が服の下に大量のカイロを貼っているだけじゃ」
「なんだソレ!じゃあなんで廃ビルに居たんだよ?」
「『都会のドラゴン』を捜していただけじゃろう。竜樹と同じようにな。4月とは言えこの寒さじゃ、カイロも貼りたくなろうに」
「え~」
「都会のドラゴン」を真っ向から否定され、竜樹は不満の声を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!