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かおす部と転校生
朝方、竜樹が学校に行くと、教室のテンションが上がりに上がっていた。
なんでも転校生が来るとかなんとか。
未だにクラスに馴染んでいない竜樹の耳にも届く程に、その話でクラスは持ちきりだった。
しかしいまひとつ会話に入り込めない竜樹は、荷物だけ置いてそそくさと教室を去った。
目指すは剣道部。
少しうれしい気持ちで、竜樹は剣道部の朝練を眺める。
前もって言っておくが、竜樹は決して剣道部などではない。
ここにやって来たのはあくまで「あの人」に会うためだ。
「都会のドラゴン」の噂を信じている数少ない人物の一人である。
そして「あの人」はめちゃくちゃ剣道が巧い。
そう、人間の姿をしたドラゴンくらいなら倒してしまいそうなほど━━━━つまり、人の判別がつきにくい剣道の防具を着けていても、動きで人がわかってしまうほどに……
「ヤ━━━━━━━━━━ッ、面━━━━━━━━ッ!!」
パシィィッ!!
透き通った声と共に、激烈な面を亜光速で叩き込む。
相手が気づいた時には、既に面を打ち抜けて納め刀をしていた。
周りから巻き起こる拍手。
そして竜樹に気づいたのか、竜樹に向けて手を振った。
そう、その人こそが、竜樹と同じ「都会のドラゴン」を信じている、奈佐麻白(なさましろ)である。
3年生にして総勢部員300人オーバーの剣道部の部長である。
麻白が面を外すと、鋭さを備えた美しさを持った顔が現れた。
そう、奈佐麻白は女性である。
そしてその美しさと強さ故に、やたらと崇められる傾向があるが、本人はそれをあまり嬉しくは思っていない。
それを知っている竜樹は、あくまで普通の先輩として接している。
「何か用か?竜樹」
「麻白先輩、ここで話すには少しアレな中身なので……」
「……もしかして、アレ絡みか?」
「ええ、まあ」
竜樹がそう言った瞬間、麻白の目の色が変わった。
「悪い、みんな。私はもう抜けるよ」
麻白がそう言った瞬間、今度は剣道部の部員達の目の色が変わった。
具体的に言うと、白くなった。
そしてその白い視線が竜樹へと突き刺さる。
「え、あ、すみません。えっと……その……失礼します!」
竜樹は麻白を連れて、逃げるように部室を後にした。
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