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強く言いきった焔火の目は、真っ直ぐに雅を見つめている。
雅は無表情に焔火を見つめ返す。
そのポーカーフェイスから焔火の合否を見い出すことはできない。
張り詰めた空気の中、雅はゆっくりと口を開いた。
「不正解」
「……」
「答えは『那由多』だよ」
「そ、そんな位があるんですか!?」
竜樹が慌てて言う。
ガタン!
焔火は席を立った。
竜樹から見た焔火の横顔は唇を噛んでいた。
それは悔しいというより期待が外れて苛立っている風だ。
「……『テストは不合格、もう私に用は無い』ということでいいですか?」
「そうかもね。だけど、後1つだけいいかな?」
「なんですか?」
「じゃあね、10の72乗は?」
「雅先輩!!これ以上自分の知識をひけらかして優越感に浸ろうとするのはやめて下さい!!」
竜樹は雅に怒った。
「確かに、それはただの嫌味だぞ」
麻白も竜樹に賛成した。
その目付きは芳しくない。
「いいんです」
焔火は麻白を手で制した。
その表情は下を向いていてよく見えない。
「だが……」
「答えは『那由多』です。違いますか?」
「また那由多?」
竜樹は首をかしげる。
「うん、確かに違うよ。ほのかちゃん、」
一拍。
「でも『合格』だよ」
「「ええッ!?」」
竜樹と麻白は驚きの声を上げた。
焔火はさほど驚いた表情はしていない。
むしろ、それが当然であるかのように嬉しそうな表情をしている。
「ほのかちゃん、僕を試したね?本当に自分の部活の部長にふさわしいかってこと」
「すみません」
焔火は嬉しそうに謝った。
「え?どういうことなんですか?雅先輩?」
「那由多って位はね、一応10の60乗ってことになってるけど、一説には10の72乗ってのもある」
「はあ……」
「多分ほのかちゃんは10の72乗ってことを信じていて、今の『那由多』は認めない……つまり『無い』って答えたんだよね?」
「はい」
「そして、そう説明すればいいのにしなかったのは、僕がそのことを知ってるかを試すためだよね」
「はい」
「あの……ついて行けないんですけど」
竜樹がぼそりと言った。
「馬鹿者はこの会話について来なくていいよ。そしてほのかちゃん」
焔火の手を取る雅。
「かおす部にようこそ。歓迎するよ」
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