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少年は槍を斜に構える。
そして目をつむった少年は衝撃を覚悟した。
『ゴールド・ブレス』
衝撃を受けると思ったその瞬間、少年の乗ったドラゴンの声が届いた。
少年の視界が金色に染まる。
少年が攻撃を受ける前に、金竜が金色のブレスによって球体を防いだのだ。
高温に熱せられた金の粒子による、圧倒的熱量と質量によるブレス。
球体は推力を失って、地面に墜落した。
地面に墜落した球体は形を崩し、消える。
中から現れた物体を見た少年の時間は、止まった。
中にあったのは、無傷の盾と、少女の屍体。
屍体のあちこちはドロドロに溶け、なまじ人間の姿を保っている分、おぞましい。
大量で高温の金の粒子は、如何に強力な盾であろうとも、その熱までは受け止めることは叶わない。
「き……貴様ァ━━━ッ!!」
少年は自ら乗っている金竜に向かって叫んだ。
「**を……なぜ殺した!!」
『確実な勝利の為』
金竜から少年に返されるテレパシーの口調は、至って平然。
「なんでだよ!!俺が止められたかもしれないだろ!!」
『明らかに不可能』
「そんな訳……無い……」
『ある。理解しろ』
「…………もしかしたら……」
『まだ言うか。冷静に考えろ。お前は、世界の滅亡の確率と、自分がアレを受け止める確率を同じくしても良かったのか?』
「う……」
少年は言い返せない。
「うあ゛あ゛あぁぁあ゛ぁあああぁぁぁあ゛あ゛ぁぁあぁああ━━━━━ッ!!」
そして、壊れるように泣いた。
少年は金竜の背中から飛び降り、少女の屍体に駆け寄る。
「**ッ……**ッ……」
少年は少女の名を呼びながら、溶けかかった少女の屍体を抱き起こす。
いまだ熱い少女の屍体に、少年の腕が火傷を負うが、少年は少女の屍体を抱くことをいとわない。
抱いた手指の隙間から少女の肉がこぼれ落ち、抱き起こした拍子に少女の腕がもげ落ちる。
顔だけがなぜか無事で、しかしその目線は何にも向けられていない。
「どうして……なん……だよおッ!!」
少年は吠える。
空を仰いで。
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