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外に飛び出すと、まだやや寒い4月の夜の空気が竜樹の思考をクリアにしてくれる。
「都会のドラゴン」が居るとされている廃ビルは、都会の「商業区」と「廃棄区」の境目の辺りに多く見られる。
そして竜樹自身の家は「学業区」にあるのだが、そこはほとんど商業区との境目に当たり、よって廃ビル地帯ともそれなりに近い。
その理由は「都会」の性質にある。
まず、「都会」というふざけた名前のこの都市は、5つの区に分かれている。
「学業区」は「商業区」の次に栄えている区で、活気だけで言えば国一番かもしれないと言われている。
その中心部分には「都会学校」という、果てしなく巨大な中高合同学校があり、その大きさは3km四方。
全校生徒は2万人を越えつつある。
それを取り巻くように敷き詰められた学生寮及び学生の住宅、さらには学生をターゲットとした店舗が、学業区の全てだ。
「商業区」は都会で最も栄えている区だ。
そこでは日に兆単位の金額が取引されているという。
巨大なビルと巨大な店舗が入り乱れる様は、まさに壮観である。
「廃棄区」は5つの区のゴミ捨て場に近いイメージだ。
全ての区に関係が深いこともあり、廃棄区は都会の中心に、残りの4区がその周りに配置されている。
そしてその商業区との境目の土地には、商業区で敗れ去った多くの企業の死骸━━すなわち廃ビルが建ち並んでいる。
そして商業区にはルールがある。
あまり大きくない新参企業は廃棄区に近い土地しか買えない。
そこで成功すれば商業区の中心へ、失敗すれば廃ビルを遺して消え去る。
こうして商業区と廃棄区の境界に廃ビルが建ち並んでいるのだ━━━━
そんなことを考えているうちに、竜樹はその廃ビル地帯へと着いていた。
その廃ビルの林とも言える場所を、竜樹は駆け抜けていく。
学業区に近い辺りの廃ビルはあらかた調べ尽したため、より遠い廃ビルまで歩を進めなければならない。
……まあ、同じビルにずっとドラゴンが来ているとは限らないけどな。
竜樹は自嘲気味にそう思った。
と、その時である。
竜樹の目に何か動くものが映った。
それは竜樹が注視する前にビルへと入って行ってしまったため、何かを確認することは叶わなかった。
ドラゴン……?
いや、でも多分アレは人だった。
竜樹は曖昧な推測を確かめるために、ビルへと歩いた。
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