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戻ってきた直樹は左右のポケットに詰め込まれた飲み物を一つずつ取り出すと、みんなに手渡してくれた。
春樹と悟にはホットコーヒー。
藍と飛鳥にはホットココア。
直樹の手にもコーヒーが握られていた。
ーーーーーあったかいーーーー…
それぞれに直樹にお礼を言うと蓋を開けた。
飛鳥はそれを手に握ったまま蓋を開ける事はなかった。
聞きたい…。
でも聞けない…。
直樹が他の人といる事が悲しかった。
ヤキモチなのか…それとも〈付き合っている〉と言う肩書きなんかがある為の只の独占欲なのか…。
自分の気持ちが解らない。
はっきりしない。
只はっきりと言えるのは…憂鬱だ、と言う事。
身勝手なのは知っている。
自分の事を棚に上げて直樹を束縛しようとしているのは自分勝手と言うものだ。
そして飛鳥はまた一つ、自分の気持ちをしまい込んだ。
鍵のかかった扉の向こうに。
直樹が戻ってすぐに参拝の順番が回ってきた。
みんなそれぞれに五円玉を用意する。
何故か直樹だけは五十五円。
「…何で五十五円なの?」
飛鳥が不思議そうに聞く。
すると直樹はにかっと笑って言った。
「五人が幸せになれる様にさ。
五重に幸せになれる気がしない?」
すごく素敵な事だと思った。
「せーので投げない?」
「「おっ、いいね~」」
藍の思い付きに直樹と悟が賛成する。
そして直樹の合図でみんなは一斉に小銭を投げた。
「じゃぁいくよ………せーの!!」
ーーーーーーーチャリンー…
五人はすぐに手を合わせた。
飛鳥は願い事をする。
もう決めていた。
『ずっとみんなでいられます様に、それから…少しでも春樹に私を覚えていてもらえます様に…』
みんながどんな願い事をしたのかすごく気になった。
脈絡のない考えかもしれないが、こういう事は口に出さない方がいいのかもしれない。
飛鳥の場合、話したくても話せない内容だが。
すると悟が隣で呟いた。
『春樹が…みんなが救われます様に…』
それは周りのざわつきにかき消され、きっと飛鳥にしか聞こえていなかった。
しかし飛鳥にはそれだけでは何を意味しているのかは突き止められない内容だった。
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