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私達は何も変わらないまま冬休みが終わった。
新学期が始まるその日、藍はめずらしい事を言い出した。
「あ~すかっ!!たまには二人で帰らない?」
屈託のないその笑顔に昔に戻れた様な気すらして飛鳥は嬉しくなった。
そして二つ返事で承諾した。
「春樹達には言ってあるからさ!
あのね、あたしクレープ食べたいんだ~!」
飛鳥は藍のその言葉に疑問を持つ事なく、鞄を手にした。
「いいよ。じゃあ駅ビル行こうか?」
すると藍はまたにこっと笑った。
学校から駅ビルまではすぐ。
ビルの中には洋服店や、雑貨屋、ブランド店なども入っている。
別館はホテルにもなっている。
飛鳥と藍は入り口に入ってすぐ、通路の右に面して開かれているクレープ屋に入った。
二人は持ち帰りでクレープを注文した。
藍はイチゴと生クリームがたっぷり入っている物を。
飛鳥はバナナと生クリームにチョコレートがトッピングされている、定番の物を注文した。
帰り道をゆっくりと歩きながらそれを口に運ぶ。
藍は本当においしそうに食べる。
相変わらず、彼女の話す事と言えば春樹の事ばかりだった。
今の飛鳥にはそれも苦にならない。
「へぇ」とか「ふ~ん」とか…適当に相槌を打つ事にも慣れた。
昔から割とそうだったが、藍と居る時には聞き役に撤する事の方が多い。
最近は特に。
飛鳥がいつも通りに相槌を打つ。
しかし藍の次の言葉には思わず聞き返してしまった。
「飛鳥ぁ、ちょっとヤバいかもよ?
あたしこの前見たんだけどさぁ、直樹さん、元カノと会ってるみたいだよ?
案外まだ好きだったりして~」
「………は?」
「嫌だなぁ、あんまり怖い顔すると可愛くない、飛鳥ってば~」
何だか藍に見下されている様な感覚を覚えた飛鳥はすぐに平静を装う。
確かに動揺した。
ショックを受けた様な感じも自覚した。
しかしそれ以上にそれを藍に聞いたと言う事が屈辱的だった。
…どうして藍から聞かなきゃいけないの?
〈何でも知ってるから教えてあげる〉そう言いたいわけ?
「別にそんな事ないってば。
藍こそ、ぼうっとしてて大丈夫?春樹は」
すると藍の顔色も変わる。
恋愛は駆け引きだ。
押したり引いたり…それが上手くできる者は勝者になる。
しかし今、それは友情にも当てはまると思っている。
私達は相手の顔色を伺って、互いの腹を探り合う。
果たしてそれは…
"友情"と呼んでもいいのだろうか…?
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