新しい年

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その日の夜、飛鳥は直樹の部屋に居た。 何も聞く事はできない。 聞ける立場ではないから。 聞いてしまったら直樹に惹かれていると認めてしまう事になるから。 浮かない顔をしている飛鳥を直樹は心配していた。 いつもと様子が違うから。 直樹が心配してくれている事は飛鳥にも解っていた。 「飛鳥、俺に甘えろって言ったよな?」 「…うん。でも何もないから平気だよ?」 飛鳥がそう言って笑うのを直樹は見ている事しか出来ない。 今日は春樹がいる。 飛鳥はまた直樹に抱かれる。 只、目を瞑り、春樹の事を考えて快楽を貪る様に…。 春樹と同じ匂い…。 いつもはそれが心地よい。 しかしこの日は違う。 春樹を思う傍らで直樹の事を考えている。 目を開くと映る直樹の姿を見つめた。 他の男を…彼の弟を思う自分なんかとは違う。 きっと飛鳥の事だけを想い、飛鳥の為だけに自分の体を預ける純粋さを持っている彼に今までとは違う感情が芽生えている。 只、愛おしくて…。 飛鳥は直樹の首に手を回す。 覆い被さる直樹の頭は飛鳥の腕に引かれる。 直樹の耳元に飛鳥の顔が近づく。 「…ッン……あす…か…?……どぅした…?」 「…ンッ……ハァッ……あい…してる…」 こんな時でなければ言えない言葉。 体の芯からふわふわとする様な感じに身を預け、快楽に浸る中で伝えられる言葉を。 それを聞くと直樹は笑う。 そして二人は抱き合ったまま激しさを増し終わりを告げる。 飛鳥の"愛してる"の言葉、それはきっと春樹に向けられた物…。 直樹はそう解釈した。 飛鳥の愛は全て春樹に向けられている。 直樹はそれを十分理解しているつもりだった。 悲しくないと言えば嘘になる。 でも今は贅沢は言わない。 嘘でもその愛の言葉を聞いているのは自分だから。 飛鳥を抱いた時にも感じたいつもとの違いに直樹は疑問を持った。 また何かを独りで抱えている事はすぐに解った。 さて、それをどう喋らせようか…。 すると飛鳥はいつもの様に服を整え、煙草を持ってベランダへと向かっていった。 その姿を見送ると、直樹は窓に近寄る。 飛鳥の手によって閉められたその窓を少しだけ開ける。 そして耳を傾けた。 その短い時間、いつも春樹と話しをしている事は知っていた。 その会話を…飛鳥の言葉を拾える様に。 盗み聞きなんて趣味じゃない。 でも…飛鳥の為に。
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