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その日だった。
直樹と会ったのは。
公園からの帰り道、足取りは重い。
ずっと考えていた。
私が我慢してきたのは何の為だったのか。
どうして今、こんなにも悲しいのだろうか。
ずっと春樹を見てきた。
嬉しい時も悲しい時もみんなで過ごした。
悩み事は何でも藍に相談した。
春樹の事を除いては。
四人で決めた約束があったから。
藍には…もちろん悟にも絶対に言えない秘密だった。
長い間大切にしていた想いがこんな形で崩れ去るなんて…思いもよらなかった。
悟から聞いた事は衝撃的で、飛鳥の頭から離れる事はなかった。
気づけば家とは違う方向へ歩いていた。
飛鳥の目からは涙がこぼれ落ちた。
こんな風に失恋するなんて…。
初恋だったのにな…。
足を止めると、そこは春樹の家の前。
無意識のうちにここまで来ていたらしい。
そのまま春樹の部屋の方を眺める。
部屋にいるらしく明かりが付いている。
春樹はもう藍のもの。
こんなに近くにいたのに半年も気が付かないなんて…あたし何してたんだろ…。
すると後ろから足音が聞こえる。
びっくりしてすぐにその場を立ち去ろうとすると足音が早くなり、その主に呼び止められた。
「おい、待てよ。人ん家の前でぼぅっと突っ立って何してんのかと思えば飛鳥ちゃんじゃん」
「直…樹…さん?」
昔からみんなで行き来していた私達は、勿論春樹の兄は良く知る人。
飛鳥はほっとした。
変な人じゃなくて良かった…。
「全く…春樹も隅に置けないね。藍ちゃんといい、飛鳥ちゃんといい……」
飛鳥は俯いた。
直樹はその様子を見てため息をついた。
この時、直樹は大学二年生。
飛鳥達より二つ年上。
「寄ってかないの?」
「…………はい」
「じゃぁ送ってくよ。いくら近いって言っても女の子が夜道を一人で歩くのは頂けないしね」
そう言うと断る飛鳥の隣に来て、無理やり手を取り歩き出した。
その手は暖かい。
春樹や悟なんかよりもずっとしっかりした男の人の手。
直樹は何も言わなかった。
只、俯きながら歩く飛鳥の手を引き、街灯だけの薄暗い道を歩いていた。
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