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「だから、いい思い出で 取っておきたいの」 真理の手を強く握ったが 言葉はでてこない 真理の強い覚悟を感じた僕は 静かにうなづいた 「わかった」 僕は甘えてしまって 最後の最後まで真理を 苦しめてしまっていた 「真理、ゴメン」 すると真理は首を横に振り 「ショウくんありがとう」 と言った またしばらく沈黙が続いた 田舎の昼さがり 客のいないファミレスで 僕らは完全に別れた 真理は駅まで見送りに ついてきた 駅までの道中 会話はなかった 「ショウくん、キスしたい」 真理はそう言って 僕に抱き着いた 僕はそれまで随分と 頭の中で会話していたが すぐに真っ白になった そして冷静に 「おばさんが見てるけど 知り合いばっかじゃないの?」 と小声で尋ねた 真理はさらに小声で 「知り合いだけど 関係ないからキスしてよ」 と笑いながら言った 真理は少し背伸びをした 僕は真理に 最後のキスをした 程なくして電車が来ると 真理は僕より先に立ち上がり 「ショウくん、バイバイ」 と言って駅の出口に向かって 走り出した 僕はあっけにとられながらも 電車に乗り込んだ
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