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人間は渡されたロケットを一度握り締め、コンクリートの壁に背を預けた。
小さく古ぼけた銀のロケット。
指先で開く。
そこには写真があった。
そこには人間としての色や形を保った、先程のこの世の者ならざる少女が笑顔で写っていた。
とびきりの笑顔だった。
「……真矢…」
人間は名を呼んだ。
写真の少女の名を。
この世の者ではなくなった少女の名を。
ふと、人間の眼が光った。
葉を濡らす夜露の様に、『それ』が頬を伝っていく。
伝い落ちた『それ』は、パタパタとかたいコンクリートの床に円を描いた。
それからしばらくはくぐもった、押し殺した様な声と共に『それ』が円を描き続けていた。
………
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