Chapter1 “真実”

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「それで、どうなったんだ?」やはり、この確定されたセカイにも、例外は存在するのか。それを聞いただけで、何故か満足だった。 「それがある能力を持てるようになってしまった。いつからかは分からない。何でそんな能力が身に付いたのかも分からない。ただ分かっているのは、彼らは確実に進化していたということだけ。……その能力とは、『実体のある生命体の心の中に住み着き、それを己の体のように動かすことができる』というもの。私たちはそれを『精神侵食作用』と呼んでいる。そしてもう一つ能力がある。それは、そのイレギュラーに寄生されている人間の心が描く、『最も恐ろしいもの』になることができる。ただし、それはそのイレギュラーの持つ力によって変身できる限度は変わってくるが」 「ちょっと待て。じゃあなんだ、そのイレギュラーとやらにやられたやつは心を失うっていうことのか」 「確かにそうだけど、初めから心を乗っ取られることはない。第一、イレギュラーが思考を侵食するためには条件がある」  陽の対面に座っていた彼女が席を立った。テーブルの上に転がっていたサイコロを集め、それを机の引き出しへ片付けようと後ろを向く。 「侵食するのに必要なのは、心に隙間があること。心に開いた隙間ということは、思考が止まり、本能という生命の思考の中心物さえが働かなくなるということ。本能の根本に位置する欲求、つまり、『生きたい』という感情がなくなる時に、イレギュラーは初めて侵入することができる」 「本能がなくなるって、一体どういう時だよ」  嫌な予感がした。まるで、体中のあらゆる汗腺から冷や汗が噴き出したようだ。  サイコロを引き出しにしまった彼女が、こちらを向いた。その目には、陽の姿は写っていない。まるで誰もいないかのように話している。 「……それは絶望。だけど、絶望なんていう感情を抱くのは、そこそこの知能を持った生物だけ。そしてこうした感情を抱くのは地球では人間のみ。だから、地球上では人間が最もイレギュラーの標的となりやすい」
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