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彼女は机から紙とボールペンを取り出した。あの引き出しには一体何が入っているのだろう。文房具が入っているのは頷けるが、サイコロまでもが入っていたのだ。どこに文房具と遊び道具を一つの引き出しの中に入れる人がいるというのか。
彼女はテーブルに紙を置くと何かを書き始めた。
「IDはs18528。だが、普段使っているの名は剣銘麗【つるぎな れい】」
彼女、麗は紙に名前を漢字で記した。剣銘麗……ふ、彼女をよく表わしている名だな。
「IDっていうのは何だ?」
思考を働かせるようにしているが、活発に動かない。
「それは知ってもどうしようもないこと。今あなたに言ったところで理解するのにまた時間がかかる。だから知らなくていい。時間の無駄だから」
麗は無駄がない動きで玄関まで歩いていき、扉を開けた。外は相変わらず真っ暗で、闇が広がっている。
「一人で帰れる?」麗が尋ねてきた。
――当たり前だ。真夜中だから一人で帰れるかなんて、そんなものは子供にする質問だ。俺はもう子供じゃない。
――いや、麗はこう考えることも分かるんじゃないのか?だとしたら、この言葉は意味を成してはいないじゃないか。じゃあこの言葉の真意は何だ?
「今の言葉にはどんな意味が含まれていた?」
俺が尋ねると、麗は少しだけ黙り、そして答えた。
「あなたが言いたいのは、私が発した言葉が何を意味していた、ということ?『以前のあなた』の思考法則を元にすると、私はあなたの考えていることが大体はわかるから、それを知った上でその言葉に含ませた意味を知りたい、と?」
「そうだ」
「……同じことを繰り返すけど、あなたはイレギュラーに侵入されたときからもう『あなた』ではない。当然思考も違う。そして、イレギュラーの思考は未だ観測することは不可能。だから、イレギュラーに侵入されているあなたはもうアルミティでは予想できなくなってしまっている。とはいえ、観測していけば『今のあなた』の思考も読めるようになるはず。……確信は持てないけど。とにかく、今はもう以前のあなたではない。今は影響が非常に微小だからあまり差はないが、いずれ大きく変わってくる。さっきの言葉は、あなたの思考がわからないからとりあえず聞いてみただけ」無表情のまま、麗は答えた。
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